横浜市西区のコミュニティバス「おでかけ3」は、移動する交流の場
2023年1月13日
山・坂・階段が多い地域の、誰でも乗車できる移動支援バス
参加費は30円。毎週水・金曜日に運行。(祝日も運行)
横浜市西区の第3地区(藤棚商店街などがある、浜松町、藤棚町、久保町、東久保町、元久保町エリア)には、だれでも利用できるボランティアが運行するバスがあります。
それが「おでかけ3(さん)」。
車椅子での乗車も可能で、スタッフは車椅子での乗降体験などの勉強会も実施しています。
山・坂・階段が多く、坂の下と上の地域をつなぐ交通機関が少ない。また、大きなバスが入れない道が多く、買物や通院のために出かけることが大変なこの地域。
地域住民と藤棚地域ケアプラザ、生活創造空間にしなどのメンバーで「おでかけ3実行委員会」を立ち上げ、運行を管理しています。
※最新情報は「おでかけ3」のホームページでご確認ください→こちら
今や生活の一部になった「おでかけ3」
取材時に乗車した女性は、午前中は商店街へ買物へ。午後は入院する知人のお見舞いへ行くために、1日に3度「おでかけ3」を利用したそう。
この日のバスの添乗員や運転手とも顔馴染みです。
「バスがなかったら買物へ行くにも大変。コロナになってからなかなか人と会うこともないから、こうやって元気?と一言話すだけでも違うからね。」
バスの利用が、日常に欠かせない一部になっています。
バスから生まれるコミュニケーション
「おでかけ3」の添乗員はボランティアで当番制です。
この日の添乗員だった、実行委員長を務める笠原實さん(おでかけ3実行委員会委員長)にお話を伺いました。
笠原さんは、停留所に着くと付近にいる人々に声をかけます。
バスに乗らない人でも、まちには顔馴染みが多く、行く先々で挨拶を交わします。
また、バスの乗降時には絶対に安全確認を怠りません。
重い荷物も、利用者が安全に乗り降りできるよう代わりに持つなどして助け合います。
「今、”乗る人いるかい?”って聞いたらさ、次に回ってくる時までもう少し待ってる。っていう人がいたんだよ。もう一回ここに戻ってくるからね。」
停留所の中には、商店街の一角にあるコミュニティ広場があり、利用者同士がティータイムを過ごしながらバスの到着を待つことができるのもポイントです。
バスがあるから街へ出て、友人たちとのおしゃべりが楽しめます。
こうした配慮やコミュニケーションが、「おでかけ3」の親しみやすさにつながっています。
地域住民の声からうまれた「おでかけ3」
これまでに乗車したことがある方は189名。一日平均20名ほどが利用している「おでかけ3」は地域住民の声から生まれました。
平成28年度に藤棚地域ケアプラザが高齢者を対象にして行ったアンケートやヒアリングの結果、「山・坂・階段が多いため、買物に苦労している。」と回答した方が全体の約7割近く。
地域の方の外出を支援することで、人と人、人とまちをつなぎ、地域の活性化になると良いな、という思いの下、平成29年度に「おでかけ3実行委員会」を立ち上げました。
協議に参加していた「生活創造空間にし」が施設利用者送迎用の車いす対応のバスを、送迎で使っていない時間帯に提供してくれることになり、平成31年4月3日、本格運行を開始しました。
名前の由来は、「第3地区のみんなが自由にお出かけできるようにしよう!」という希望を込めています。
現在の運行ルートは、商店街や病院、地域ケアプラザや自治会館などを含む9つの停留所があります。
つい最近も、利用者の声から停留所が1つ増えました。
常に、利用者の意見を取り入れながら、「おでかけ3」は進化しているのです。
人と人、人と街をつなぐ「おでかけ3」
笠原さんは元々、現役時代は建設会社で働き、まちの再開発などにも関わるなど忙しいサラリーマン生活だったため、定年退職をするまで地域活動へ関わることはほとんどなかったそうです。
しかし退職後、自治会への参加や地域活動への沢山の誘いをうけているうちに、地域の活性化に携わり始め、様々な役割を経て現在では「おでかけ3」の実行委員長を担っています。
そんな笠原さんをはじめ、たくさんのボランティアスタッフの方々の人柄や、熱意によって、「おでかけ3」はひとつの「移動手段」から「移動する交流の場」として地域の方々に親しまれているのです。
「コロナ禍で活動が止まった時、沢山の利用者さんから”いつになったら再開するの?”と言ってもらった。その声で、必要とされていると感じたし、すごく嬉しかったな。」
と、笠原さんはこの活動を続けるモチベーションについて教えてくれました。
長い時では1か月運行できなかった時期も。生活の一部になっていた移動支援バスが運行できないとなると、利用者さんたちの移動手段がなくなってしまうことになります。
どうすれば運行再開できるか試行錯誤しながら、今では手指消毒や検温などを添乗員が行い、お互いに譲り合いながら緩やかに人数制限するなど、コロナ禍の新しい形を作り出しました。
誰もが参加できる地域活動の助け合いを継続したい
今後、バスの運行数を増やすことも検討していると笠原さんは言います。
利用者の方から「もっと運行数を増やしてほしい」との声が増えているそう。
そのためにも、「おでかけ3」の添乗員やサポートスタッフなどのボランティア人材も増やしていきたいと考え、ホームページなどでもボランティアスタッフの募集をしています。
また、子育て中の方など、高齢者だけではなく若い人にも活用してもらえるようにするのが今の目標。
気軽に利用できることや、こうした地域のボランティア活動があることを、より多くの方に知ってほしいと笠原さんは考えています。
ボランティアも募集中!
おでかけ3は今日も、老若男女、地域全体で試行錯誤しながら、人と人、人とまちを繋いでいます。
ご案内
編集後記
実際に一緒にバスに乗った感想ですが、利用者だけでなく、住民の皆さんが笑顔だったのがよかったです。
バスがまちをつないでいるのが印象的でした。
コロナ禍で希薄になってしまったつながりを、この移動支援バスがまた優しさで繋ぎ直してくれているように感じます。
「バスがなければ外に出ることもない。バスが走っていることがきっかけで、おでかけしようと言う気持ちになる。」
ただの移動手段ではなく、誰かと繋がるきっかけをくれる優しいバスに出会えました。
誰かと繋がるきっかけ、意外とすぐ近くにあるかもしれません。
※この掲載内容は2023年1月19日時点のものです。